遺伝子組み換え技術の最新動向サマリー( 2025年6月)

出典:HOBIA NPO法人 北海道バイオ産業振興協会

ハイライト

今月もイネに対する研究、特に脱水と酸化ストレスに対する耐性を向上させることの成果が目についた。インドの専門家がゲノム編集技術を用いてイネの脱水現象に抵抗性を与えることを示した。脱水は、特にエネルギー生産に不可欠なミトコンドリア呼吸を妨げることで、植物の成長に深刻な脅威を与える。そこで PR-Cas9 ゲノム編集技術を用いて、ストレス応答遺伝子 OsDUF2488の過剰発現が脱水耐性を向上させた一方、ノックアウト変異体は脱水に対して過敏反応がを示した。つまりOsDUF2488 がミトコンドリアを保護することでイネの脱水状態での生存を助けることを発見した。OsPrx1.1と組み合わせると、この 2 つはストレスによって生成される有害な分子を分解する役割を果たす可能性がある。

イネに理想的な植物形態特性を付与することは、作物の収量を向上させるための最も重要な戦略の一つである。この特性を制御する遺伝子は IPA1と SPL14で、これらは miR529と miR156によって負に調節されている。この研究では、CRISPR-Cas9 システムを用いて miR529/miR156-IPA1調節モジュールを精密に編集することで、この効果が示された。

この他、米国とイギリスのバイオテクノロジー研究者チームを率いるCenter for Plant Science Innovation at the University of Nebraska-Lincoln所長のEdgar Cahoon教授は、植物由来の遺伝子を使用し、細菌経路ではなく、油料作物Camelina sativaを遺伝子組換えにより、養殖サケやエビの着色に用いられる貴重な赤色抗酸化物質アスタキサンチンを高レベルで生産するように成功した。

ゲノム編集により、中国の研究者はトマトの SlGA20ox1遺伝子をノックアウトし、短茎とコンパクトな冠層を特徴とするトマト植物の形態を改変した。この改変により、多層 LED 水耕システムにおける必要なスペースが 75%削減された。スペース節約のメリットは、高密度植え付けと効率的な光利用により、果実収量が 38~69%増加した。

オーストラリアのヒヨコマメ品種を、旱魃耐性に関連する「QTL ホットスポット」領域の導入によりさらに改善できることを発見した。この QTL ホットスポットは、インド、エチオピア、ケニア、タンザニアのエリート品種への導入後、15~22%の収量向上効果を示している。

University of Saskatchewan(USask)の研究者が、野生コムギの品種から、生産者にとって最大の懸念事項の一つとされる真菌性病害である縞錆病に対する顕著な耐性を発見した。この野生品種で発見した耐性が、以前に研究した他の耐性とは異なる挙動を示していることに気づいた。通常、縞錆病の耐性は 1 つの遺伝子によって発現されるものだが、この野生小麦では 2 つの遺伝子がペアとして機能し、完全な耐性を発揮していました。1 つの遺伝子は侵入する病原体を感知し、もう 1つの遺伝子は植物の免疫反応を活性化して病原体の進行を阻止する。

Kashmir University の研究者が、インド初のゲノム編集羊の開発に成功し、筋肉の成長を調節するミオスタチン遺伝子に改変が加えられた。ミオスタチン遺伝子を阻害することで、子羊の筋肉量が約 30%増加した。ゲノム編集羊は非編集羊とほとんど違いがなく、どちらも約 2~2.5kg の羊毛を生産すると付け加えた。ただし、ゲノム編集された子羊は非編集の子羊よりも重く、より多くの肉を生産する。

植物

  • オーストラリア連邦科学産業研究機構(Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation CSIRO)の研究者が BT ワタのボルワーム耐性に関連する遺伝子を特定
  • 中国農業科学院(CAAS)の研究者が、中国における遺伝子組換え(GM)害虫抵抗性トウモロコシの採用に影響を与える要因を分析
  • キャメリナを遺伝子組換えにより天然のアスタキサンチンを高レベルで生産するように改良
  • 米国農務省動植物検疫局(USDA-APHIS)は、Cibus社の除草剤耐性キャノーラ品種HT2を規制対象外と指定した
  • 専門家が EU に対し、有機農業における NGTs の使用を認めるよう要請
  • Chinese Academy of Sciences の専門家が垂直農業向けのトマト生産を最適化
  • International Crops Research Institute for the Semi-Arid Tropics (ICRISAT)が世界初の高温耐性ピジョンピーをスピードブリーディング技術で開発
  • インドネシアが農業バイオテクノロジーの確信を関係者に開示
  • PAIRWISE 社がゲノム編集プラットフォームを International Maize and Wheat Improvement Center(CIMMYT)にライセンス供与
  • オーストラリアがひよこ豆パンゲノムで国内のひよこ豆生産を向上させる
  • University of Saskatchewan の研究者がコムギを縞錆病から守る遺伝子ペアを発見
  • Food Standards Australia New Zealand (FSANZ)理事会、遺伝子技術と新たな育種技術に関する定義の改訂を承認

動物

  • Kashmir University がインド初のゲノム編集羊を生産

食糧

  • 中国が遺伝子組換え微生物由来の 3 つの酵素を承認

ゲノム編集に関する特記事項

  • インドの専門家がゲノム編集技術を用いてイネの脱水現象に対抗
  • 科学者が CRISPR を用いてイネの理想的な植物形態特性を開発
  • レビュー論文が植物ゲノム編集における規制の重要な役割を明らかに

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