海外のWEBメディアには、バイテク農業に関する優れた記事がたくさん掲載されていますが、日本国内のメディアはこうした内容の記事を忌避するため、我々には届きにくいのが現状です。そこで日本バイオ作物ネットワーク(JBCN)では、著者や掲載元から許可をとり、日本語に訳して当サイトに転載します。記事一覧はこちらをご覧ください。今回は、カナダはウェイバーンの農場を家族で営むジェイク・レギーのブログから転載してお送りします。ありがとう、ジェイク!
元記事:
A YEAR IN THE LIFE OF A FARMER
Farmers Are The Original Environmentalists. So What Are Governments Trying To Fix?
農業 —
1万年の歴史を持つこの産業は現在、地球上の78億人もの人々を養っている。何千億ガロンものエタノールやディーゼル燃料を供給し、何十億もの家畜を養い、世界中の何億もの家族を支える。持続可能な仕事の典型の一つだ。
私はカナダのサスカチュワン州南部で両親、兄弟、妻と子どもたちともに農業を営んでいる。従業員には家族以外も含まれるが、彼らは私たちにとって家族のような存在だ。何千エーカーもの美しい土地でさまざまな作物を栽培している。いつか私の子どもたちが4代目として、この農場を引き継ぐことを願っている。
※訳者注:1エーカー = 約0.4ヘクタール
私たちと同じような人が世界にはたくさんいて、世界中の農家が土や環境を大切に管理しているが、最近の世界各国政府の話だけを聞いていれば、そうは思えないかも知れない。
そうした政府はヨーロッパからスリランカまで世界中にあり、それらは、農業を改善しようとしながら実際には悪い方向へと動きはじめているように思える。野心的な政治家たちは、自分たちの欲するもののために農業を変えようとしている。
欧州で2020年に発表されたFarm to Fork戦略は、「より健康的で持続可能なEUのフードシステム」へ の変革を掲げたものだ。その目標には以下のようなものが含まれている。
- 2030年までに農薬使用量を50%削減する。
- 2030年までに化学肥料の使用量を、少なくとも20%削減する。
- 2030年までに有機農業を行う農地を、欧州の農地全体の25%に拡大する。
他にもいくつか目標はあるが、主要なものは極めて野心的なこの3つだ。
この厳しいルールによって、ヨーロッパの生産量は落ち込むだろう。食料価格の高騰は避けられない。食料安全保障に関心を持つ者にとっては破滅的と言える。欧州の農家たちが農業を続けるインセンティブは存在するのだろうか? 収益性は低下し、この規制をすべて把握するために多大な負担を強いられることになるからだ。
あなたは、オランダの抗議デモのことを耳にしたことがあるかも知れない。もしあなたがオランダの農家なら、しかし、このFarm to Fork戦略を「手緩い」と感じるかも知れない。
オランダ政府は、2030年までに化学肥料による窒素の排出量を50%削減したいと主張しているが、この数字は地域によって異なる。場所によっては95%の減肥を要求しているのだ。
この規制下では、すべての農場が存続できない。いくつかの農場は買い取られることになるだろう。驚くべきことに、オランダ政府はつい最近、こんなことを言っている。
“正直なメッセージは……すべての農家が事業を継続できるわけではないということだ”
Dutch farmers organise mass protests in face of farm closures ※
※元記事記載の出典先の記事が削除されていたため、JBCNが同じ内容に言及した別の記事に差し替えました。
もしあなたがスリランカの農家なら、忘れていないはずだ。2021年に肥料や農作物保護製品の購入を禁止され、有機農家になるよう強制されたことを。ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領は2019年、まさにこの公約を掲げて選挙戦を展開し、それに勝利した後、速やかに実行に移したことを。その結果、食料輸入が急増、通貨が暴落して貧困が急速に拡大、暴力的な抗議デモが起こるなど、まさに破滅的な事態となったことを。
世界中どんな国でも、農家は自分の人生の何十年かを費やして、収益性の高い強固な農場を築き上げる。いつか自分の子どもたちに農場を譲り渡したいと願いながら。両親が与えてくれたのと同じ機会を子どもたちにも与えたいと。ところが、ある日突然、それは間違っていると言われる。政府はもっといい方法を知っている。あなたの経験など何の役にも立たない。肥料をどれだけ使うか、雑草をどう管理するか、家畜の世話をどうするか。あるいは彼らは、あなたは農業を続けるべきか辞めるべきかさえ決めたいのかも知れない。
これはSF映画でも、オーウェルの「1984年」でもない。たった今、現実に、先進国でも発展途上国でも同じことが起きているのだ。
グリーンピースやシエラクラブのような環境保護団体のキャンペーンは、徐々にだがしかし確実に、農業の評判を落としてきた。かくして、動物福祉への懸念にくわえて、畜産とそれに使用する飼料の栽培面積が大き過ぎるとした畜産業者への攻撃がはじまる。農業を巨大な産業複合体と見なし、農薬や肥料による土壌汚染を続けているというレッテルを貼った。最近では、農業が気候変動に与える影響を適正に見積もりはじめたが、畜産や肥料使用に対する攻撃は続いている。
農業が直面してきたこれらの攻撃は、食料システムの「最適化」をゴールとするプレーヤーたちによって組織化され、豊富な資金を用いて戦略的に遂行されてきた。これに対して私たち農家は、意味のある、インパクトのある方法で対応してこられなかった。簡単に言えば、農家は戦争に負けているのだ。
では、農家はいつも正しいと言えるのか?
もちろんそうではない。まだまだ進歩しなければならないことが多く残されている。しかし、より良い農業へと向かう最も安全なやり方は、今も昔も農家の手にある。何年も、何十年も、いや、何世紀にもわたって同じ土地で農業を営むつもりなら、農家はそこにある土をゴールドのように扱う。環境、土壌、そして農場の経営に対する細心の配慮は、農家が長期的に生き残るために絶対に欠かせないものなのだから。
1980年代後半、表土が風で吹き飛ばされるのを見た農家たちは、それによって仕事を失いかねないことに気づいた。これまでよりももっと良い方法を見つける必要があることにも。
農家たちはやり方を変えた。10年にわたる深刻な干ばつ、高金利、価格低迷の結果、耕起や夏期休耕といったやり方から最小耕起、連作、長期輪作へと大きく転換したのだ。これにより生産性が大幅に改善され、土壌侵食も激減。その結果、所得が向上した。農家たちは自ら変革し、適応したのだ。
いま、私たち農家はかつてないほどのテクノロジーを駆使する。土壌検査を行い、異なる場所に異なる割合の肥料や化学肥料を散布し、祖父たちが想像もしなかったような高いレベルで作物を監視している。これは驚くべきことだ。
そう、テクノロジーは農業を変えてきた。1970年代の2,4-D除草剤が、1980年代の不耕起栽培が、1990年代の遺伝子組み換え技術がそうであったように。
政府、食品企業、非政府組織が農業を変革する方法を教える必要はない。そのためのインセンティブはすでにあるのだから。リソースの無駄な消費は、時間とお金の無駄を意味する。そんなことを繰り返していたら、私たちの農場は次の世代まで存続できない。
私が暮らすカナダの政府は、オランダやスリランカほど極端なことはしていない。政府が提案しているのは、肥料からの窒素排出量を2030年までに30%削減するというものだ。 これは農家による自主的な削減であり、窒素肥料の使用を制限する計画ではないと政府は強く主張する。少なくとも現時点では。
しかし、カナダの農家は自国の政府を信頼するに足るとは考えていない。最近、連邦環境相が農家の小屋の水を勝手に検査したことは、相互の信頼を強化するものではなかった。
農家が恐れているのは「自主的な」排出削減が、世界の他の地域で見られるような「強制的な」減肥に変わることだ。
農家が政府の要求に従って窒素肥料の使用を減らした場合、収量が減少するのは確実だ。いままさに世界が、信頼に足る — カナダの農家や、環境に配慮する輸出業者 — から得られる穀物を必要としているときに、だ。
私たちの収益性も競争力も低下するはずだ。
あなたが支払う食事代も高くなるだろう。
しかしこれは世界中で実際に起きていることだ。他国の農家たちが、彼の国の政府によってけなされるのを見るのはつらい。自分の国で起こったらと考えるだけでも恐ろしい。そしてこれが、飢餓に苦しみ人たちにどんな影響を与えるかについて考えることも。いつもそうであるように、間違いだらけの食糧政策の決定がもたらす影響を受けるのは世界の貧しい人々だからだ。
数年前、ロバート・サイクが「農業は2050年までに100億人を養うことができる」と語った。しかし、世界中で行われている政策を前提にするならば、彼の質問に対する答えは「ノー」だ。環境への影響を最小限に抑えながら、いまも増え続ける人々を養い、バイオ燃料の原料を供給し、地球上のすべての家畜を養うために必要な技術は、既に揃っている。必要なのは政府が邪魔をしないことだ。だが残念なことに、政府はますます邪魔をしたがっている。しかし、安全で栄養価が高く、健康的で手ごろな価格の食品は、政府ではなく農家が生み出するのだ。
ジェイク・レギー Jake Leguee
カナダはサスカチュワン州(Saskatchewan)ウェイバーン(Weyburn)近郊の14500エーカー(5800ha)の農地で、デュラム、小麦、キャノーラ、エンドウ、レンズ豆、亜麻を栽培。妻と3人の息子、また別の家族たちとともに農業を営む。農家として、また農学者として農業、科学とビジネスを通じて、より良い社会を実現するために、Global Farmer Networkをはじめ、農業に関する様々な組織に属し、情報を発信している。
(画像出典: Global Farmer Network)