[転載] 遺伝子編集に対するゼロ・トレランス 方式によって、有機農業は終焉を迎えるかもしれない

海外のWEBメディアには、バイテク農業に関する優れた記事がたくさん掲載されていますが、日本国内のメディアはこうした内容の記事を忌避するため、我々には届きにくいのが現状です。そこで日本バイオ作物ネットワーク(JBCN)では、著者や掲載元から許可をとり、日本語に訳して当サイトに転載します。今回はその第一弾。JBCNのアドバイザーでもあるPaul M. Templeの記事をご紹介します。ポール、ありがとう!

元記事
Science for Sustainable Agriculture
In its ‘zero tolerance’ approach to gene editing, the organic sector may seal its own demise

イースト・ヨークスの混合農家ポール・テンプル氏は、新たな遺伝子技術を頑なに拒むことで、有機農業が生産性や持続可能性、実行可能性を改善する大きな機会を逃す可能性があると指摘します。遺伝子編集の利用が従来の育種で一般的になり、一方で有機農業では利用を禁止する状態が続けば、旧来の遺伝子を持つ野菜が病気や害虫に侵されやすくなり、有機農業とそうでない農業の生産性の格差がさらに拡大することは広く予測されています。そしてテンプル氏は、有機農業界隈でもこれに同意する声が増えてきていることについても言及します。


有機農業のロビー団体が自説を譲らず、独断的に遺伝子編集を否定することに、私はますます困惑している。なぜならば、遺伝子編集技術は外からDNAを導入することなく、合成農薬の必要性を削減または排除するのに役立つし、有機農家が受け入れている、化学薬品や放射線を使用した旧式の突然変異育種よりも比較にならないほど精密で効果的だからである。

彼ら有機農家が遺伝子編集技術の利用に反対する理由は、それを使用しないことで、生産性が低く、多くの場合、環境破壊的な栽培方法になったとしても、マーケティング上のメリットがあると考えるからであろう。25年前であれば、遺伝子組み換え作物の隠れた危険性を煽り消費者を怖がらせることで、有機農産物の売上を押し上げることができたかもしれない。

しかし現在は全く違う世界が広がっている。

ロシアによるウクライナ侵攻、新型コロナウィルス感染症、気候変動の影響、食料やエネルギーコストの高騰は、人々の見方を変えた。一般市民は食料安全保障、健康、気候変動といった課題に取り組むために、新しい食料・農業技術の使用を積極的に受け入れるようになった。

これはFSA(英国食品基準庁)が最近実施した調査でも証明されている。これによると、例えば、健康上のメリットがある(65%)、環境に良い(64%)、アレルギーに対して安全(64%)、美味しい(62%)、価格が安い(61%)、気候変動に強い(60%)といった理由があれば、遺伝子編集の食品を利用すると消費者が回答しているのだ。

この世論調査の数字は、確かに注目に値する。まだ市場に出ていない製品にも関わらず、消費者の2/3が試したいと考えていると知ることができるのはマーケティング担当者の夢だからだ!

そしてこれこそが正に、新しい技術の初期段階の応用方法なのである。

2022年3月に遺伝子編集作物の試験的公開に関する簡略化された取り決めの導入以降、イングランドにおける遺伝子組換え作物の圃場試験届出は現在までに9件、Defra(イギリス 環境・食糧・農村地域省)から発表されている。ほぼすべての申請が、食品廃棄物の削減(莢飛散抵抗性アブラナ、褐変しないジャガイモ)、農薬使用の削減(ジャガイモの疫病抵抗性)、より健康的な食事(オメガ3を強化したカメリナ、プロビタミンB3を多く含むトマト)、より安全な食品(低アスパラギン小麦)など、食糧供給、健康、環境を改善する技術革新に焦点を当てている。

有機農業がこうした技術を一切取り入れないことで、生産性、持続可能性、実行可能性を変革する大きな機会を逃している可能性を示唆する。このことは広く予想されている

そして有機農家の中にも、これに同意するかのような声が増えている。

例えば、デンマークの有機農業団体であるØkologisk Landsforening(オーガニック・デンマーク)は、最近発表された新しいゲノム技術(NGTs)の将来的な規制に関するEUの計画に対して、有機農業におけるNGTsの禁止案に疑問を示した。このような技術が従来の植物育種に広まると予想される中、この立場を見直すべきであると提言したのだ。

画像出典: Spektrum

1990年から2020年まで有機農業研究所(FiBL)の所長を務めたスイスの研究者ウルス・ニグリ氏(写真)は、有機農業推進の第一人者の一人だが、取り残されないために、遺伝子編集に対する立場を変えるようヨーロッパの有機業界に求めている。氏は、ドイツの雑誌『Spektrum』に掲載された最近のインタビューの中で、「遺伝子組み換え作物不使用」が有機農業のセールスポイントであり、有機農業が市場での差別化を図るために、分子生物学的育種法に対する恐怖心を意図的に高く保っていることを認めている。

CRISPR-Cas9のような新しい遺伝子編集技術は、自然界や従来の育種においても常に起きているような、ゲノムの個々の部位に的を絞った突然変異を可能にする。このような変化は自然界でも起こりうるが、CRISPR-Cas9を用いた育種では進捗がはるかに速く、農業と社会に多くの利点をもたらす、とニグリ氏は話す。

さらにニグリ氏は、遺伝子編集を拒否することで、有機農業部門は持続可能な農業における先駆的な優位性の喪失、慣行農業よりも20〜50%低い生産性、病害防除のための銅ベースの殺菌剤への依存など、現在の生産における課題の潜在的な解決策を見失う可能性があると警告している。

彼の見立てでは、中国とアメリカの市場を中心に、遺伝子編集された作物品種が5年から10年のうちに主流になる。これは、製造された窒素肥料や化学農薬から脱却することが世界的なトレンドになることを意味し、これによって有機農業は、特に持続可能性の面で取り残される危険にさらされることになるという。有機農業が大規模に行われる場合、その実現可能性は、同等の投入資材が有機の形態で入手できない「緊急」適用除外のもとで、非有機投入資材を日常的に入手できるかどうかに決定的に左右されるからだ。

高額なプレミアムを支払っている有機農産物の消費者はそのことに気づかないかもしれないが、有機農産物の生産者が非有機農産物の種子、飼料、飼料、子飼料、繁殖用家畜、抗生物質、駆虫剤などの投入に依存している例は多い。

たとえば昨年、イギリスで有機農業の作付け面積は長期的に減少しているにもかかわらず、有機農家団体による非有機種子の使用認可は過去最高を記録し、1万7000件以上の個別適用除外を受けている。

もし有機農業が遺伝子編集に対する「ゼロ・トレランス方式」を維持する一方で、こうした技術が主流の植物育種に日常的に使用されるようになれば、このような免除措置はもはや利用できなくなる。次第に古い遺伝子が劣勢になり、病気や害虫が蔓延しやすくなり、有機農業と慣行農業の生産性格差はさらに拡大することになるだろう。

以上のことを理由に、私は、有機農業が遺伝子編集技術に対して門戸を開くことを強く求める。

何を失うというのだろう?

そこは大変な価値に溢れている。


ポール・テンプル
イースト・ヨークシャー・ウォルズで耕種・畜産混合の農場を経営し、種子用穀物、ナタネ、野菜、牛肉を生産している。元National Farmers Union副会長、元Copa Cogeca Cereals, Oilseeds and Protein Group会長、European Biotech Forum創設者。貿易、技術、持続可能な農業、経済成長、食糧安全保障の推進において農民の声を増幅するため、世界中から強力な農業指導者を集めたグローバル・ファーマー・ネットワークの理事でもある。